Ⅲ-1. 本草のすすめ

最終更新日 2018/10/03

こんにちは!のぐち(@drtwitting1)です☆

漢方の古典を読もうと思っても、いくつかのハードルがあってつい敬遠してしまうことがあると思います。

 そもそも古典を読もうと思ったことがないっス!

わしだってそうだ…でもたまにちょっと調べてみようかと思うことがあるよ。そんなとき気軽に調べられるようになったら世界が少し広がると思うんだ。

今回はあまり漢方を使わない方でも気軽に読める古典のジャンル―「本草」を紹介してゆきたいと思います。

【目次】

 

漢方古典を敬遠してしまう原因

ざっと挙げるとこんな原因があると思うんだ

① そもそも古典を読むきっかけがない

② 漢文が苦手で読めない

③ 古典特有の記載様式を理解していない

④ 読むべき資料がわからない

 これらの原因を解決する方法として、まず最初に読む古典として「本草」をお勧めしたいと思います。

私が大学で漢方を習った際、最初に『傷寒論』の処方を解説、次に『傷寒論』以外の頻用処方の解説、最後の1回の講義が「本草」でした。最初のころから非常に面白かったのですが、同時に薬理的知見もエビデンスの話がないため「漢方はうさんくさいな」という思いもありました。しかし最後の「本草」の講義で漢方にハマってしまいました。人によってどちらがよい順番かは違うかもしれませんが、私は先に「本草」を講義してもらえたら、もっと集中して聴講していたのにと思いました。

 「本草」ならこれらをクリアできるの?

ほかの『傷寒論』とか黄帝内経医書に比べたらはるかに楽にクリアできるとわしは思う。その理由をこれから解説していこう。

本草」 を調べるとよい場面は意外とある

 漢方処方を実際に扱っていないとなかなか古典を読もうとは思いません。しかし漢方を扱っていなくても「本草」に関しては調べてみると面白いものです。
たとえば「この食べ物は身体を冷やすから食べすぎはよくない」とかよく聞きますが、その文献的根拠を調べるのに「本草」が役立ちます。実は同一の薬名であっても時代や編著者によって微妙に温めるとか冷やすといった作用の見解が異なることがあります。もしかしたら時代や場所によって同一薬名でも違った物なのかもしれません。
こういったことを調べるには、成分などの生薬学の知識だけでなく、『証類本草』『本草綱目』などの本草書も必要になってきます。

現代は健康ブームで「〇〇が△△によい」といった情報にあふれています。成分やエビデンスを調べるのも大事ですが、「本草」ではどう考えられていたか?を調べてみるのも面白いのでは、とのぐちは提案します。

 漢文が苦手でも「本草」は読める

漢文が苦手でも古典は読める。そう、「本草」ならね。

試しに「麻黄」条を少し紹介してみましょう。
麻黄、味苦温。主中風、傷寒頭痛、温瘧、発表出汗、去邪熱気。止欬逆上気、除寒熱、破癥堅積聚。(『神農本草経』部分のみ)

癥堅積聚(ちょうけんしゃくじゅう)っていうのはよくわからないけど、麻黄の効能について書かれていることはわかるよ。

癥堅積聚が現代のことばでいうと何なのかというのは難しい、とにかく腹部のあたりのかたまりということだ。「麻黄、味苦温。中風、傷寒の頭痛、温瘧を主(つかさど)り、表を発して汗を出し、邪熱気を去る。欬逆上気を止め、寒熱を除き、癥堅積聚を破る」と漢文が苦手でも訓読はそれほど難しくないはず。「主る」=「治す」と考えてもらって大丈夫だよ。

漢方の考え方がわからないと深く解読はできないけれど、漢文だから読めないというわけではないと思います。むずかしい用語はGoogle検索でも最初はOKです。
 

本草」は古典特有の記載様式を理解するのに最適

それから「本草」は古典特有の記載様式を理解するのに最適なんだ。

比較的やさしいってこと?

いや、意外と複雑ではあるけれど、記載様式の考え方がほかのジャンルの古典より分かりやすいといえる。

 下に挙げる画像は『重修政和経史備用本草』(1249年刊)、通称「晦明軒本『政和本草』」と呼ばれています。本草書は時代とともに改訂されてどんどん記述が増えていきますが、もともとあった古い文章を改正していくのではなく、古い文章の後に注をつけていく様式で改訂していきます。
 

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うわぁ、なんじゃこりゃ…

ここでは、文章が読めないとか、いろんな本草の名前とかは気にしないで、記載様式と西暦だけ注目してもらえればいいよ。本草の歴史についてはまた次回以降にやっていくつもりなので。

まずは大字と小字の2種類で記載されていることが特徴です。そして小字は大字1行分のスペースに2行で記載してあります。この小字の様式を「細字双行」といいます。
そして大字を経文(本文と考えてよい)、小字は経文に対する注釈で、古い注から新しい注と改訂のたびにどんどん付け足してゆく様式です。
もし後代の人が大字の文章と違う意見をもっていたとしても、大字の文章をいじることはせず注釈で自分の意見を述べるにとどめます。古典を読むにはこの記載様式に慣れることが必要ですが、本草はどこが、いつ誰の注釈なのかがもっとも分かりやすく記載されているのでおススメなのです。

勝手に本文をいじるのはNGなんだね!でも本草って今でいえば医薬品集みたいなものでしょ?こんな改訂の仕方をしていたら、どんどん文字数が増えちゃうし、大事なことが飛び飛びになっちゃうね。

その理由からこれ以降の本草書である『本草品彙精要』や『本草綱目』ではこれまでの伝統本草の様式はやめて別名・産地・味・薬効といった項目にわけて記載するようになった。また文字数が多くなってきたので『本草備用』など要点をまとめた本草書も生まれたんだ。

論語』に「述べて作らず(述而不作)」という言葉があります。色々な解釈がありますが、「解釈を述べることはするけれども、新しい著作はしない」と捉えることもできます。孔子は経典の解釈はするけれど、新たに経典を著作するということはしませんでした。 孔子儒学の開祖ではなく、それ以前からあった経典を解釈した祖述者という位置づけです。
本草の記載様式は中国の古典全般に通じる「述而不作」を体現するものといえるかもしれません。文字というものを重く考えていたずらに著作はしない、安易に文章を改竄しないという思想がこの様式にはあります。

実際に本草を読むには

じつは今回画像にした晦明軒本『政和本草』(北京・人民衛生出版社影印本、1957)は絶版で入手が困難です。

えー!だめじゃん。

古典を研究する人が少ないんじゃ!売れなきゃ絶版になるでしょ。

まずは現代の本草関連の書籍を使って、もっとくわしく本草書で調べたい箇所を見つけたら大学の図書館で閲覧してもらうのがよいかと思います。次回はよく利用されている本草書を紹介しますので、そちらを図書館で調べていただければと思います。
現代の本草関連の書籍もいいものが色々出版されていると思いますが、とりあえずのぐち(@drtwitting1)の書棚にある書籍を2冊紹介いたします。
『漢方のくすりの事典』は第2版がでています、わたしは初版本を持っています。事典ですが読み物としてペラペラめくって読むと面白いです。

 

カラー版漢方のくすりの事典第2版生ぐすり・ハーブ・民間薬

カラー版漢方のくすりの事典第2版生ぐすり・ハーブ・民間薬

 

 

 『東方栄養新書』は食材のことがメインです。

東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル

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 まとめ

本草」は古典をよむきっかけがない、漢文が苦手という方が最初に読むにはおススメです。

本草書にみられる古典特有の記載様式は、いつ誰の意見ががはっきりわかる形式です。現在でも根拠となる出典を明示することが大切です、様式は現在と異なりますが通じるところがあります。

☆今回の記事はここまで☆

今回は本草書にみられる古典特有の記載様式を理解していただければ幸いです。

最後まで読んでくださってありがとうございました!次回以降は本草の歴史を知ってどこが誰の注釈なのかがわかるような内容にしたいと考えております。お時間を使って読んでくださったことに心から感謝申し上げます!あとがきはコチラ