日本医史学会学術大会に行ってきました

こんにちは!のぐち(@drtwitting1)です☆

 

2019年5月18~19日に名古屋市で開催された日本医史学会学術大会に行ってきましたので、その日記としたいと思います。

 

最近、日本循環器学会はTwitterを活用して学術集会の模様をSNSで発信し、参加していない人にも雰囲気を伝えることができました。文字・文章を重んずる気風の日本医史学会において、いたずらに文章を残すことで語弊を生むことの恐ろしさも感じつつ、参加していない人に日本医史学会の雰囲気が伝わるよう、また自らの備忘録として少々書いてみたいと思います(汗)。

 

学術大会プログラム

第120回日本医史学会学術大会プログラム

抄録号:『日本医史学雑誌』65巻2号、2019年6月(数年後にはweb公開されると思います)

 

 坂井建雄「医学史が解きあかしたこと、物語ること」

【理事長講演】*1

2019年5月に上梓されたばかりの『図説 医学の歴史』。650点を超す図版を収載して5800円。見本が展示されていたのを閲覧しましたが、図版がたくさんで眺めているだけでも楽しいです。購入して読もうと思います。

図説 医学の歴史

図説 医学の歴史

 

 ◎「医学史」と「医史学」の違いについて

医学史より医史学のほうが広義であるという解釈。あまり意識していないことでしたが、医史学は医学史と医療史に分けられるとも言えるのかもしれません。

医学史:医学(医学という学問)の歴史→科学史と重複する部分もある

医療史:医療(実践的な応用)の歴史

医史学:医(医学+医療)の歴史

◎科学者と科学論者の描く歴史

科学論者(科学史研究者に相当?)と科学者が描く科学史では、科学革命について全く逆の見解が示されるというお話。

 シェイピン(科学史家 1943- )

「科学革命」とは何だったのか―新しい歴史観の試み

「科学革命」とは何だったのか―新しい歴史観の試み

 

 ワインバーグ(物理学者 1933ー )

科学の発見

科学の発見

 

1990年代の米国では科学論者と科学者の間で「サイエンス・ウォーズ」と呼ばれる激しい論争が生じたとのこと。下掲書はサントリー学芸賞受賞。

新装版 サイエンス・ウォーズ

新装版 サイエンス・ウォーズ

 

 坂井先生のお話は、マクロな視点で普段あまり意識したことがないものでした。この講演で紹介された書籍を読んでみようと思います。

 

 山内一信「伊藤圭介の先見性と意志の強さ」

【シンポジウム3】*2

伊藤圭介(1803ー1901)は名古屋が生んだ植物学者、博物学者です。ツンベリー『日本植物志』を訳述註解し、『泰西本草名疎』を刊行しました。これはこれまでの『『本草綱目』といった恣意的な分類とは異なる、リンネの24綱分類という科学的な植物分類を紹介したという意義があります。

会期中、合間を見て東山動植物園内にある伊藤圭介記念館を訪れました。山内先生は伊藤圭介記念館蔵の伊藤圭介日記『錦窠翁日記』などの翻字・刊行もされており記念館で購入することができます。

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伊藤圭介記念館

私は記念館内の蔵書・蔵品が収録された図録を購入いたしました*3

 丸井英二、杉田聡田中誠二「我が国の「老衰死」の過去・現在・未来」

【一般演題67】*4

人口動態統計において、近年「老衰死」が増えている。これは在宅死が増えているからではという内容。

死因を科学的に特定できないことは医学として恥ずべきこという風潮があったが、在宅死が増えてきて、家族としては「老衰」という死因は喜ばれるという背景があるのかもしれないという考察がフロアからありました。

こういった死生観などの文化的側面のほかにも、例えば「誤嚥性肺炎です」と言われるより「老衰です」といわれることで訴訟のリスクが減るのかもなどといった考察がフロアからあがりました。

一方で統計資料としての正確性をどう担保するかなど悩ましいなと思いました。

私はこの演題で非常に感じるところがあって、医史学というのは医療の実践に直接役立たないものだと思っておりました。しかし先の理事長講演でもあったように医史学は医学史と医療史を含み、医療史研究は文化的側面をもつ医療問題の解決に間接的であれ貢献する可能性があると思いました。

 村井はるか、高橋正樹「栗田静枝の足跡―我が国の診療情報管理の開拓者―」

【一般演題65】*5

 診療情報管理の開拓者、栗田静枝についての発表でした。聖路加国際病院の診療記録管理主任としてカルテの管理、疾病統計、手術統計作成などをなんと1956年から行っていたとのこと。昔を知る先生からは、1970-80年代でも聖路加国際病院は情報管理のレベルが高く情報の整理・活用に定評があったとのことだ。電子カルテが普及した現在においてもできてないところはできていないなと思ったり思わなかったり…

 おわりに 

上述した講演の他にもたくさん面白い講演がありました。とくに私が興味を持っている漢方医学関連では多くの学びがありました。

魅力をお伝えできた自信はなく、また宣伝できるような立場でもありませんが、日本医史学会は医史学に関心を寄せる幅広い分野の人たちが集まります。少しでもご興味がありましたらぜひホームページをご覧いただければと思います。

*1:『日本医史学雑誌』65巻2号、161頁、2019年6月

*2:『日本医史学雑誌』65巻2号、169頁、2019年6月

*3:名古屋市東山植物園編『伊藤圭介の生涯とその業績』、名古屋市東山植物園、2003.10

*4:『日本医史学雑誌』65巻2号、247頁、2019年6月

*5:『日本医史学雑誌』65巻2号、245頁、2019年6月