Ⅲ-2. よく利用される本草書の紹介
こんにちは!のぐち(@drtwitting1)です☆
この記事では、前回の続きとしてよく利用される本草書の紹介をしてゆきたいと思います。
前回は『政和本草』という本草書は絶版になっていて購入できないと突き放してしまったので…
まず下図「主要本草系統図」(岡西為人『本草概説』34頁、創元社、大阪、1977の図を改変)を見ていただきたいと思います。
この図のうち黄色の3書がよく利用される本草書となります、まずはこの3つをおさえていればOKです。
【目次】
よく利用される本草書
まずは図の黄色で示した3書だね。これをしっかりおさえよう。
・『大観本草』(経史証類大観本草)
・『政和本草』(重修政和経史証類備用本草)
前回(Ⅲ-1)、本草書は改訂の度に古い注から新しい注とどんどん付け足してゆくということをお話ししました。この記載形式で現存している本草書が『大観本草』と『政和本草』という2種類の証類本草です。
一番大きな違いは、図を見てもらうと分かるかもしれないけど、『政和本草』は『本草衍義』の文章も採り入れていることだね。
『政和本草』は伝統的記載の最後の本草書になり『本草衍義』まで採り入れているので普段参照するには便利です。ただ両者は同じ文章でも字句が違うことが結構あって、論文などに引用する際は、両者とも参照してゆくのが無難です。『大観本草』は証類本草データベース(富山大学 和漢医薬学総合研究所)で閲覧可能(無料の利用登録が必要)で、現代語訳までついているので利用しやすくなっています。
・『本草綱目』
最後の『本草綱目』はどういう書物なの?
こちらは伝統的記載様式は廃して別名・産地・味・薬効といった項目にわけて記載している。何より『政和本草』から300年以上経過しているのでその金~元~明代の薬物理論も加えて編集されている。『本草綱目』は本草書の集大成ともいえる内容なんだ。そういえば今年2018年は著者・李時珍生誕500年にあたる。湖北省蘄春県(キシュンケン)では紀念李時珍誕辰500周年国際学術会議が開かれたそうだよ。
収載数からも、歴代の説をまとめて参照するにも『本草綱目』は最も便利な書物です。ただ論文などに引用する際、『本草綱目』から引用するのは注意が必要です。というのも『本草綱目』よりもっと古い文献に遡れるのであればそちらから引用するのがよく、『本草綱目』自体けっこう字句の誤りが多いといわれているためです。
『本草綱目』は3次資料と心得ましょう。『証類本草』に収載されている文章ならそちらから、金~元~明の文献からの引用であればそちらの原典に遡って引用するのが無難です。
もっとさかのぼりたい場合に利用できる本草書
次の3書はマニアックですが、参考程度にご紹介します。貴重な資料が残っているんだなあと捉えていただければ幸いです。
・『本草集注』
陶弘景(456~536)により編纂された『本草集注』はその一部が発掘文献として現存しています。現存は下記の2点。
・トルファン本『本草集注』(ベルリンのプロイセン学士院に収蔵)*1
どちらも一部しか残っておりませんが、本草の旧態を知るうえで有用な資料です。トルファン本では『神農本草経』と『名医別録』の文を朱と墨で区別、「薬対」文と注文を細字双行とする旧態をうかがい知ることができます。
今伝わって利用されている『証類本草』では『神農本草経』は白字文、『名医別録』は黒字文で区別している。朱墨で区別する写本時代の旧態が見れるのはとっても貴重だね。
・『新修本草』
唐の顕慶四年(六五九)、李勣・蘇敬らが増補・加注した『新修本草』二〇巻は中国初(世界初)の勅撰本草です。部分的には発掘文献もありますが、欠落はあるもののまとまって残っているのが仁和寺本『新修本草』です。
・古巻子本『新修本草』巻15 (武田科学振興財団杏雨書屋蔵)
・『神農本草経(森立之復元本)』
『神農本草経』そのものは現存しませんが、江戸後期の医者・学者の森立之が復元した『神農本草経(森立之復元本)』や考証を加えた『本草経攷注』*4は本草書を理解するうえで重要な文献です。
臨床家が著作した本草書
・『薬性能毒』
・『薬徴』
最後に臨床家が著作した本草書を紹介したいと思います。『証類本草』や『本草綱目』は歴代の記載を集めていくので情報量が多くなります。そこで臨床家たちは実臨床に即した短めの本草書を著作していきました。そのため現在でも臨床に直結するよい書物がたくさんあります。ここでは代表的な2書を紹介します。
・『薬性能毒』
ヤクショウノウドクと呉音で読んだり、ヤクセイノウドクと漢音で読んだりします。戦国時代から安土桃山時代に活躍した医師、曲直瀬道三の著作です。さらに後世の医師たちあ増補改訂して様々な版本が出版されています。「能」と「毒」、すなわち効能と毒性や禁忌について、従来の伝統的本草にみられないような臨床的な視点でまとめてあります。
・『薬徴』
江戸中期に活躍した吉益東洞の著作。こちらも従来の伝統的本草にみられないような記載内容になっています。『傷寒論』の処方から個々の薬物の薬効を導き出すような手法となっています。
まとめ
最後に今回紹介した文献の書誌情報をまとめます。NII書誌ID(NCID)を記載してありますので、CiNiiBooksで検索して図書館などで調べる際の参考になりましたら幸いです。
よく利用される本草書
・『大観本草』(経史証類大観本草)NCID:BA71990380
証類本草データベース(富山大学 和漢医薬学総合研究所)で閲覧可能
・『政和本草』(重修政和経史証類備用本草)NCID:BN05517483
・『本草綱目』 京都・オリエント出版社影印本 NCID:BN0975056X
校正本はNCID:BB16528024 NCID:BA87651759 NCID:BA82627203など現代でも多数中国にて出版されているので比較的安価で購入できる。
もっとさかのぼりたい場合に利用できる本草書
・『本草集注』 京都・龍谷大学所蔵本の影印本 NCID:BA37101428
・『神農本草経(森立之復元本)』 NCID:BN02666807
・『本草経攷注』 影印本 NCID:BA68437230 *5
臨床家が著作した本草書
・『薬性能毒』NCID:BN02787448
・『薬徴』NCID:BN0263501X
このあたりは現在でもよく読まれているため、解説書なども出版されていますのでまずはそちらからご覧ください。
☆今回の記事はここまで☆
今回は代表的な本草書を紹介して、少しでも手に取って利用しやすいように整理しました。
最後まで読んでくださってありがとうございました!次回以降こそは本草の歴史を知ってどこが誰の注釈なのかがわかるような内容にしたいと考えております。
*1:真柳誠「目で見る漢方史料館(64) 現存最古の中国本草-トルファン出土の『本草集注』 」
『漢方の臨床』40巻8号1082-84頁、 1993年8月
*2:真柳誠「目で見る漢方史料館(79)敦煌本『本草集注』」
『漢方の臨床』41巻12号1522-1524頁、1994年12月
*3:真柳誠「目でみる漢方史料館(95)国宝、『新修本草』仁和寺本」、『漢方の臨床』43巻4号474-476頁、1996年4月
*4:郭秀梅等点校本が北京・学苑出版社より2002年11月に出版されている
*5:郭秀梅等点校本が北京・学苑出版社より2002年11月に出版されている